私は34歳、妻は32歳。
結婚6年目で、幼稚園に通う5歳の子供が一人いる。
昨年の秋から、近所に出来た室内温水プールで開かれる週二回の水泳教室に子供を通わせている。
一応、親が付き添う事になっているのだが、私は仕事が忙しくて見学にも行った事も無く、妻に任せっきりだった。
その日は仕事が早く終わったので、妻と子供の様子を見てみる気になり、そのまま室内プールに寄ってみた。
2階のガラス張りの観覧席に行き、プールを見下ろすと、十数人の子供達と、7~8人の親。
どれも若い母親ばかり水に入っている。
私の子供もいた。
手を振ってみたが、ガラスの向こうという事もあって気付かないようだった。
よその奥さんの水着姿を見るのも悪くないと思いながら、妻の姿を探したが、見当たらない。
どこに行っているのか、しばらく待っていても現れなかった。
階段を降りてロビーに行ってみると、この時間はがらんとしていて、受付のアルバイトらしい女の子以外は誰も居ない。
廊下の突き当たりに女子更衣室があるが、さすがに入る訳には行かない。
手前にトイレがあるが、ここにも居そうにない。
諦めて戻ろうかと思った時、『指導者控え室』に誰か居るのが分かった。
ここに居るな、と直感したが、威勢良くドアを開けて中に入る気にはならず、ちょっと躊躇した。
そっとドアを開けてみると、中は明かりが点いていた。
ドアの向こうに衝立てのようにロッカーが並んでいて、入ってもすぐには中の様子が分からない。
ロッカーの脇から中の様子を覗いてみると、全く想像していなかった光景が目に飛び込んで来た。
部屋の隅のソファの上で、妻と若い男が素っ裸で絡み合っている。
妻は大きく股を拡げて男の膝に跨がって、男の肩にすがりつき、くねらすように尻を前後に振っていた。
男は妻を抱き締めながら、妻の乳房を掴んで揉みしだき、むしゃぶりついている。
ショックだった。
すぐには目の前の光景が信じられず、やがて驚きと怒りと口惜しさと悲しさの感情が入り混じって、全身の力が抜け、足がガクガク震えた。
二人はセックスに夢中で私に全然気付かない。
目の前の机に見覚えのあるワンピースの水着が置かれていた。
半分に畳んである。
男の前で水着を脱いだのか?
男の顔には見覚えが無かった。
二十代の半ば、水泳のコーチらしく、浅黒い筋肉質の逞しい上半身に、短く刈り上げた髪、そして切れ長の目。
この男が妻を口説いたのか。
それとも妻が誘ったのか。
一体いつから。
どうしてこんな事になったのか。
これから自分はどうすれば良いのか。
考えようとしても混乱するばかり。
二人とも声を出さず、激しい息遣いだけが部屋の中に響いている。
妻は目を閉じ、笑みを浮かべていた。
今まで見たことのない妻の淫らな表情は、脳裏に焼付いて今も離れない。
ロッカーの脇に置いてある大きなダンボール箱と机の間に隠れて、私は妻と男の痴態を延々凝視し続けた。
妻の下腹部と太腿の筋肉が痙攣しているのが見える。
左右に首を激しく振りながら悦びの声を漏らし、妻は絶頂を迎えた。
男もほとんど同時に低い声を上げ、射精した。
それから二人はしばらく抱き合い、濃厚なキスの後、ようやく離れた。
べっとりと濡れた男のペニスを見て、私は吐き気を覚えた。
二人はそそくさと水着をまとい、部屋を出てプールに戻ろうとしている。
二人がドアに近づいた時、妻が「あっ」と小さな声を上げた。
どうしたのかと歩み寄る男に、妻は自分の太腿を指差した。
白い液体が妻の股間から溢れ出て、水着を濡らし、太腿に垂れて来ていた。
二人は笑って、もう一度抱き合い、キスをして、別々にプールへ向かった。
最後にとどめを刺された思いだった。
一度や二度ではない、もうだいぶ前からだと感じた。
私は少し遅れて部屋を出ると、目立たぬように外へ出て、二時間ほど時間を潰した。
家に帰ると、妻はいつもと全く変わらぬ顔で食事の支度をしていた。
ワンピースの水着はもう洗濯されて、ベランダに干してあった。
まるで夢を見ていたようで何だか疲れてしまい、食事もそこそこに蒲団に入った。
その日以来、妻を抱いていない。
妻を裸にして押し倒しても、自分のが勃たない。
そのくせ、男と抱き合う妻の姿を思い出す度に猛烈に熱くなる。
今は何も知らぬ振りをしているが、もしかすると、妻は私が知っている事に気付いているのかも知れない。
そんな私を密かに嘲笑っているのだろうか?
あの男と一緒に。