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憧れのA子さんとの切ない思い出

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画像はイメージです

あれは遠い日の90年代前半のこと。
当時俺はバリバリDQNな二十歳の大学二年生。
バイトで塾講師をやっていて、俺を含めた非常勤講師は男ばかり30名ほど。
専任講師がやはり男5名、そして崖に咲いた一輪の花という事務の女性が一名。

この女性をA子さんとしよう。
まあ一輪の花とはいっても飛びっきりの美女ではない。
あみん時代の岡村孝子がちょっとアカ抜けたような、今思えば平均的な女性だ。
しかし専任講師、非常勤講師を問わずライバルは多い上に、なんせガードが硬い。


しかも年齢は25歳と、俺ら貧乏学生なんぞA子さんにしてみればガキ同然だったろう。
ドライブや飲みや食事に誘っても、悉く玉砕した!という先輩の数々の体験談もあり、俺からしてみれば彼女との年齢差とか、「尊敬する先輩を差し置いて・・・」とか、色んなことを考慮して、遠巻きに一方的に憧れるだけの日々が続いた。

俺は酒の場では基本的に陽で、とにかくバカ騒ぎして場を盛り上げることが多いのだが、ある日の男だけの飲み会ではなぜか陰のスイッチが入り、A子さんに憧れている先輩や専任講師数名のグループとグチっていた。

で、そのとき俺はギャートルズみたいに口語が3Dで飛び出るような大声で、「A子さんを世界一愛してまーーーーーーす!!先輩には負けませーーーーん!!」みたいなことを叫んでしまい、これがその場の全員に聞こえてしまった。

俺をB男としよう。
この時を境に、A子&B男を本気で応援する一部の熱心な冷やかしグループ(やっかみ半分含む)を生むこととなる。
この頃の俺はどっちかって言うと、「酒の場で叫んだことだから、後で皆忘れると思っていた」気持ちが強かったが、ここまで来たら最後までトコトン行ったれー!という気持ちも俺の中にちょっと芽生えてきた。

とは言っても俺は非常勤講師だから、A子さんの顔を見るのはせいぜい週に二、三日。
それも授業開始前の数分だ。

俺「こんちはー」

A子「お疲れ様ー」

俺「えーと今日の配布物は・・・これですね。行ってきまーす」

A子「はーい。いってらっしゃーい」

こういうなんてことない、事務的なドライな会話がしばらく続いた。

一年が経った。
俺は大学三年生。
一年前のの騒動は、すっかりどこ吹く風だ。
A子さんに憧れている(いた)先輩も、もうすぐ卒業というときのクリスマスイヴ。
小中学生が冬休みの頃、塾にとっては一年で最も忙しい冬季講習会を迎える。
はっきり言って戦場のような忙しさだ。
なんせ受験生がドッと来るから教材の準備、入金チェック、講師のスケジュール割り振り等々で、労働基準法なんか完全無視の日々が続く。

この日のイヴの夜は冬季講習会の受付に終始したのだが、珍しく全てのチェックがノーミスで終わり、時間も十分にあったので、じゃあみんなで飯でも食いに行こうか、ただし酒は無しで、となった。
男8名ほどで、とりあえず近くのステーキ屋に行くこととなった。
正直言って俺は行くかどうしようか迷っていたのだが、先輩がA子さんにアタックしていた。

先輩「A子さん、これからメシ食いに行きませんか?」

A子「う~ん、どうしよっかなあ・・・ちなみに誰が来るの?」

先輩「ええっと、俺とあいつとそいつと、こいつとさらにこいつと、B男とあいつと・・・」

A子「じゃあいいわ。行きましょう?」

と前代未聞のアッサリOK。
断る理由が120%無い俺www

これには俺ら非常勤講師もびっくり。
だって、ダメもとで誘ってみたんだから。
A子さんの予定外の行動に、ダチョウ倶楽部バリに大慌ての俺たち。

「おい!だ、誰がA子さんを助手席に乗せるんだよ!!」

「俺だ俺!!!」

といきなりA子さんの争奪戦が始まる。
その様子を見てほくそ笑むA子さん。
結局ジャンケンで勝った先輩が、A子さんをステーキ屋まで乗せることに。

他の男7名はorz状態で相乗りして店で合流。
次に問題なのは、誰がA子さんの隣に座るかだ。
これもジャンケンで買った人の権利。
俺はというと案の定orzな席に。

とまあ色々あったけど、A子さんを交えてささやかなクリスマスパーティーが始まった。
いつもはビールジョッキ片手に暴れる兵どもも、今日は酒がないのでやけに大人しい・・・。
かと思いきや、玉砕回数の最も多い卒業間近な先輩が切り出した。

以下先輩の会話の趣旨。

「A子さんは、俺が何度も誘ってもいっつも断ってたけど、今日は嬉しい!
ズバリ聞きますけど、A子さんの好みの男性のタイプは?つか彼氏いるんですか?
いるとしたら、婚約はいつですか?彼氏いなければ、この中に好みのタイプいます?」

みたいなありきたりな内容だった。

これに対するA子さんの衝撃の回答はこうだ。
以下趣旨。

「今日は誘ってくれてありがとう。
てゆうか、いつも誘ってくれて断ってばかりでごめんなさい。
でもね、こう言ってはなんだけど、あたし女子高の出だから、男の人ってまず苦手なの。
その中でも今日のメンツには、あたしが特に苦手とする人がいないから安心だわ。
だから今日は参加させてもらったんだけど、その前にあたしの話を聞いてくれる?

あたし、授業前にいつもカバン(←出席簿、配布プリント等が入ったもの)用意するでしょう。
それはあたしの義務だからともかく、帰って来たカバンで大体の性格は分かるわね。
誰とは言えないけどあたしが苦手とする人は、その横暴さがはっきりあらわれているわ。
でもね、今日集まってくれた先生方は、み~んなきちんとカバンを返却してくれるの。
中身はきれいだし、チェックシートや出席簿なんかも丁寧に書いてくれるから助かるわ。
あたしが見る限り、そのカバンと先生方の身だしなみって、ほぼ100%関連しているわね。
苦手な人が一人でもいたらあたしは絶対出席しないけど、今日は高感度の先生ばっかりよ。

うふふふ、驚いた?これがあたしの仕事なの。
それで本題なんだけど・・・、実はあたし、彼氏いないの。
好みのタイプがどうとは上手く言えないけど、でもこの中に好きなタイプの先生はいるわよ。
その人が本気でプロポーズしてくれたら、たぶんOK」

というものだった。

「彼氏いないの」の発言の時は、男どものテンションがピークに達したが、その直後の「この中に好きなタイプの先生はいるわよ」発言のときは、一気にテンション下がってしまった。

A子さんを中心に、なんか妙な駆け引きが俺らで始まりそうで、またその真意を知りたい好奇心と、知らないまま終わるのがお互いにベターなのではないか、という複雑な心理がはたらき、暗黙の了解の内に俺らはありきたりな、無難な会話でイヴの夜を過ごした。
少なくともこの時点で、「A子さんの好きなタイプは、確率的に俺ではないだろう」と思っていた。

年が明けた春、俺は四年生となっていた。
四年ともなると学業が本格的に忙しくなる。
しかも与えられた卒論テーマが実に面白く、また同じ研究室に彼女ができたこともあり、バイトの方はどうしても疎かとなる。
それでも週に一日はクラスを担当していたのだが、その後の飲みとかは、ほぼ100%欠席の状態が続いた。

ある日、学食でバイトの後輩とばったり会う。
そこでの後輩の会話(以下趣旨)

「B男先輩、お久しぶりっす!最近付き合い悪いから寂しいっすよお。
またみんなでテツマンやりましょうよー!それか俺の店行きません?
ちゃんとボトルキープしてますから!あ、そうそう、最近A子さんがよく飲みに来るんですよ。
前だったら先輩方がお誘いしても、100%NGだったのに。
なんか最近、人が変わったようにアクティブになりましたよ、A子さん」

この時点で鈍感な俺は、超鈍感な俺は、ウルトラスーパー鈍感な俺は、「A子さんの言う特に苦手な人ってのは、俺の先輩の同期だったんだ」としか思ってなかった。

夏が来た。
本来なら、忙しい卒論の合間をぬって彼女とひと時の思い出づくり・・・となるのだが、最高の時期に最悪のタイミングで彼女と喧嘩してしまった。
彼女とは研究室で会いにくい。
そんな気持ちを察してか、彼女から先に帰省すると言い出した。
そんなわけで俺の夏休みが丸々空いてしまったので、四年生の夏も塾の夏期講習をやることに。

彼女に対する意地もあり、俺は過去四年分のバックアップからコピー&ペーストでまとめ、夏期講習会用の最高のオリジナルプリントを仕上げた。
ところがこれ、20ページ×500人で、およそ10000枚もの膨大な量となる。
塾の事務室に隣接して印刷機があるのだが、さすがにそれだけのボリュームとなると、塾長の許可を得てやらなければならない。
それで夏期講習前の、ある日曜日(塾は休み)に印刷機を独占してよい、ということとなった。

その日曜日が来た。
俺は予め塾長からカギを借りていた。
普通に考えればただひたすら印刷するだけだから、穴の空いたジーパンにTシャツとか、普段の小汚い格好でも良いのだが、非常勤とはいえ「先生」と呼ばれる存在である以上、スーツのズボンにYシャツ&ネクタイという、授業のスタイルで塾の印刷室へ向かった。

日曜の朝九時。
誰もいるわけない事務所に「おはようございま~す」と言ってから印刷室のカギを空け、ブレーカーをONにして必要最低限の電気を確保する。

そして原稿を一枚、また一枚と印刷機に刺しこむ。
これの繰り返し。
そういう無機質な作業を、一体どれだけ繰り返して来ただろうか。
部屋には印刷機特有の「ガーーットガーーットガーーット」というリズミカルな音が延々と鳴り響く。

「はぁ・・・」俺は思わずためいきをついた。

「彼女との意地があったにせよ、なんで俺、10000枚も印刷しなきゃならないんだろ・・・いつ終わるんだろ・・・」と半ばヤケになりつつあったのが正午前だったろうか。
山のような印刷物を前にボーっとしていたらなんと・・・。

・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。

隣には天使のような微笑でA子さんが立っていたくぁrtfgyふじこ!!!!!!!!!!!?????????????????????????????????????????????????????????
と状況がまるで分からない俺。
とりあえずうるさい印刷機を止めた。

「どどどど、どーしたんですかA子さん!!!?きょ、きょ、今日は日曜でお休みでしょう!?」と軽く、いや、極めて重くふじこってしまった俺。

それに対して冷静に、かつ笑みを崩さず会話を続けるA子さん。

「うふふ。
やっぱり今日来てたんだ、嬉しい。
ほら、B男先生がたくさん印刷するって、塾長に言ってたでしょう?
それでね塾長が予め、夏期講習に備え印刷室にコピー用紙を大量に用意しておくように、特に◯◯日の日曜はB男先生が10000枚使うからって、あたしに言ってたのよ」

「な、な~んだ、そういうことだったんですか。
あ、あははっはははは・・・。
あれ?で、でも事前にコピー用紙はA子さんが用意してくれたんでしょう?今日はなぜ?」

「んっもう、にぶいなあ。
あたし手伝いに来たんだけど、もしかして邪魔?」

「じゃ!邪魔だなんて、とととととんでもない!ぜひお願いします!!」

もう嬉しくて舞い上がって、さっきまでのやる気のなさは完全にフッ飛んだ俺。
一度は本気で憧れたA子さんが、今日はこの狭い部屋に二人っきりでいる。
それだけで俺はもう至福のひと時。
ところが、A子さんはそのさらに上を行っていた。

「ねえ」

「は、はい?」

「あたしのこと、好き?」

「え?あ、は、はい!大好きです!一年のときから、ずーっと憧れてました!」

「うふふふ、ありがとう。
あたしもB男君のこと、好きよ。
B男君が一年生のときからずっと」

gysdfぶsぢんsdlgんklsmfvだgbvcvbhjんcxsfgvgvfdせmklgfdれs亜qtfgヴhmkw是xcrftvghjんけrftvgふjxv、m、lkjhgfd、kjhgんjmhgfンbvcxfdzさv;lhgfdcvb、lmkhvfbんm。
:;お、kljhgfdfl!!!?!??!?!?!!?!?!?

もー理性とかそんなものは一兆光年彼方の世界に置き去りになった。

「でもね、B男君」

「は、はいっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?」

「どうしてあの時、プロポーズしてくれなかったの?あたし、あの時言ったわよね。
この中に好きなタイプの先生はいるわよ。
その人が本気でプロポーズしてくれたら、たぶんOKって」

「fvdbtっさdklんcbふcdさklあああああああああああ、あ、あ、あ、あ、あ、あのときは、まさか俺がA子さんの好みの男とは思わずに、つい、その、いやてっきり先輩が好みかと・・・」

「うふふふ、たしかにあの先輩も悪くないわ。
でもね、あたしにとって一番はB男君なの。
B男君の話(※)も聞いたわよ。
塾長から間接的にだけど、あたし嬉しかったなあ。
できればその勢いであたしから話したときに、みんないる前で言って欲しかったなあ」

「じゃ、じゃああああ、今こここここで、改めて!」

「ごめんなさい、もう無理なの」

「無理って!!?」

「あの後から両親がお見合い話を進めて、、、それであたし、来月に結婚退職するの」

「えええええええええええええええええええええええええ!!!?そんなの初耳ですよ!」

「そうでしょうね。
あたしもこのこと、塾長にしか言ってないもの。
でもB男君には知って欲しいと思って、最近はよく先生と飲みに行ったんだけど、B男君が四年生になってから全然来なかったわよね?あたし、寂しかったんだから」

「ごごごご、ごめんなさいっ!」

「うふふふ、謝らなくてもいいわよ、知らなかったんだからしょうがないじゃない。
この際だからB男君だけに言っておくけど、実はあたし、もう三ヶ月なの」

「さ!!!三ヶ月って・・・!?」

「もう、あたしに言わせないでよ。
できちゃっただなんて。
うふふふ」

・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。

10000%完全orz
でどこから立ち直ればいいのか分からない俺。

「B男君?」

「なんすか?」

「あたしのこと、軽蔑した?」

「・・・いいえ。
俺はガキだから、まだ頭の中が整理ついてないけど、ここは悔しさをこらえて、涙を拭いて、笑顔で『おめでとう』と言うのが筋だと思います。
なんだかよく分からないけど」

「ありがとう。
B男君ならきっとそう言ってくれると思ってた。
もう一つ聞きたいけど、今でもあたしのこと好き?」

「大好きです!俺にとってA子さんは現在・過去・未来と最高の女性です!」

「うふふふ、嬉しいわ。
大好きなB男君にそう言ってもらえて。
ねえ、抱いて?」

「こ、こうですか?」

「そうじゃないわよ。
なに腕に力入れてるのよ。
『抱く』って言うのはそういう意味じゃないわよ。
言ったでしょう?あたし、『三ヶ月だ』って」

もうこれに関してはいきなり全てのことが理解できたね。
俺はちょっと待って下さいと言って中断した印刷機を再開させ、原稿も500枚なんて言わず、MAXの9999枚に設定してしかも最低速にしてやった。
印刷機の設定が終わり、「ガーーーーーットガーーーーーットガーーーーーット」という遅い、しかし人間の声を消すには十分な音源を確保できた。
そして、印刷室のブラインドを下ろし明かりを消し、全ての準備が整ったところで彼女を見たら、すでにブラとパンツだけになっていた。

薄暗い室内だが、彼女の体の美しさはどっからどー見ても分かる。
三ヶ月だなんて、言われなければ全く分からないほど地上最高に美しい体だ。

俺とA子は夜まで、その印刷室で愛し合った。
お互い愛しすぎて、体が爆発しそうなほどに。
『狂う』というのは、あのようなことを言うのだろう。
少なくともあの数時間は、お互い人間ではなく動物と化していた。
このまま延々と動物でいたい、このまま時が止まってくれ、、、とお互い思っていた。

しかし現実という悪魔が俺たちの幸せの時間にピリオドを打つ。
動物から人間に戻った二人は、あのステーキ屋に行った。
去年のクリスマスイヴはパーティールームだったが、今日はカップルのシートだ。
二人は地上最高に美味しい、¥1、980のディナーを楽しんだ。

十分に楽しんだ後、二人は夜の無人の塾の駐車場に戻ってきた。
そして彼女が言う。

「今日はありがとう。B男君と会えるのも、あと少しだね」

「そうですね。俺たぶん、今日は一生で最も女性を愛した日になると思います」

「あたしも、たぶんそうかも。でもこのことは内緒だよ?」

「分かってますよ。A子さんも内緒にして下さいよ?一応俺、彼女いるんだから。喧嘩してるけど」

「ダメよ、女の子を泣かせちゃ。幸せにしてあげないと」

「A子さんくらい幸せにしてあげたい女性なんて、今の俺にいませんよ」

「お世辞でも嬉しいわ、ありがとう。じゃああたし帰るからね。バイバーイ」

「さようなら」

「あ、B男君はこれからどうするの?」

「塾に戻ります。印刷があと4500枚ほど残っているのと、9499枚の無駄な印刷を廃棄しないといけないので」

A子の温もりが微かに残る夜中の無人の印刷室で、俺は涙を拭いながら徹夜で印刷を続けた。
長文すまん。

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